1. 各種タービンの比較 :風車=地球タービン?
タービンは、流体の運動エネルギーを、翼車の機械的エネルギーへ変換する流体機械(原動機)である。
タービンは、作動流体の種類によって、主に火力発電や原子力発電に用いられる、蒸気を作動流体とする蒸気タービン。燃焼ガスを作動流体とする火力発電に用いられるガスタービン。ダムの水の落差を用いる水力タービン。そして本稿で取り上げる風力タービンに分かれる。
とくに蒸気タービン、ガスタービンを扱っている技術者からは、風車や水車のどこが、タービンなのだとお叱りを受けそうであるので、ここでその相違点と共通点を簡単に挙げておく。
蒸気タービン、ガスタービンは、化石燃料や核燃料を熱源として、人工的に作動流体に与えるエネルギーを制御しながら利用している。これらの化石燃料や核燃料は核燃料であれば、地球創生時に宇宙から集まってきたものであったり、化石燃料であれば、太陽からの電磁波を光合成と食物連鎖によって変換して蓄えたものである。
一方で、風力タービンや水力タービンについては、水力タービンの場合、地球表面上に存在している水を蒸発、凝結(凝縮)させる過程でポテンシャルエネルギーを与え、動力に変換する。また、風力タービンの場合、地球表層が受けた太陽からの電磁波が作り出す、対流圏の温度差によって生じた気圧の差によって生じた風を動力に変換している。
すなわち、
1.今ある系が受けたエネルギーを、どのタイミングで用いるのか。 →エネルギー再生時間
2.入力を制御できるか否か。
3.タービンが作動するための系のサイズ。
4.通常ガスタービンや蒸気タービンが機械の中に収めてしまうシステムを地球上に分散させて持っている。
の三(4?)つが蒸気タービン・ガスタービンと、水力タービン・風力タービンの違いである。
これらをまとめると下記のようになる。
蒸気・ガス | 水・風 | |
燃料の獲得・使用タイミング(エネルギー再生期間) | 数万~数十万年単位 (バイオマス経由は、数年) | ほぼ即時 |
入力制御可能? | 可能 | 不可能 |
系のサイズ | 小(建屋に収まる) | 大(地球全体) |
表1 一般的に言う「タービン」との比較
すなわち大型化していくと風力タービンは、地球(宇宙?)タービンといえる。
これら4種のタービンの出力は以下の式で表される。
ここで、m(kg/s)は流量、E(J/kg)は動力に変換可能なエネルギー、ηは変換効率をあらわす。
ここで、読者の直感的理解のために、先ほどあげた4種のタービンについて各パラメータの大小関係を相対的に比較すると表1のようになる。
m | E | η | |
ガス | 小 | 大 | 大 |
蒸気 | 小 | 大 | 大 |
水力 | 大 | 小 | 大 |
風力 | 大 | 小 | 小 |
表1 各タービンの係数比較
この表から、今後の技術開発の方向を考えると、ガスタービン、蒸気タービンは、作動流体を高温高圧化するとm、E、ηいずれも上昇するので、大型化によらなくても出力の増大ができる特徴がある。
風力タービンについては、変換効率ηやEを大きくすることができにくいので、動力を大きくするには流量を増大させるしかない。すなわち受風面積を大きくして(大型化する)いくことが必要になっていることがわかる。
2.風車の歴史と技術的要求 そして大型風車へ
2.1 小型風車
図1は筆者がアメリカテキサス州の牧場で見かけた牛の水場のための風車である。農業、牧畜のためにスタンドアロンの動力設備としてこのような風車は未だ現役である。
最初に見たときから、なぜこのような紀元前から中東に存在するような歴史の遺物が実用されているのか、ここの牧場主は骨董趣味なのか?などと考えてしまった。
しかし、最寄のガソリンスタンドが100マイル(160キロ)も離れているような場所では、対抗する手段としての、レシプロエンジンに燃料を供給することは容易ではない。また、塩分を多く含む湿原に放置したレシプロエンジンは頻繁なメンテナンスが必要になろう。
そういう意味では、機械的に単純であり、動作に燃料を必要としない小型風車は、(おそらく)牧場主のウェスタン趣味ではなく、実用的に便利なのである。
図1 ウェスタン趣味?否、実用です
ここで、小型風車の実用要件を考えてみよう。
1.発生した動力をその場で使うこと(エネルギーの地産地消)
2.燃料の入手困難性
3.保守点検や修理が可能な人間がいる。
4.故障しても困らない。
1.2.4.については、上記の牧場での使用例が参考になろう。
3.の保守点検や修理であるが、たとえば、オランダには、旧型の揚水風車に関して「風車守ギルド」というものがある。ギルドは各風車にmolenaar(モーレナー)と呼ばれる風車守を住まわせ、保守管理、運転を任せている。
古代の風車には、保守管理・運転を行なう者が必要不可欠であった。
風車も機械である以上は壊れていく運命にある。
寿命が長い機械で考えてみると、現在地球上には7億台もの自動車が走行しているが、日本の場合は、2年に一度の車検を通さなくてはならない。米国でも、1年に1度は車検を通さなくてはならない。その制度がない。あるいは無視されている国においては、動かなくなるなど「当たり前のこと」として認識されている。
また、永久駆動を謳うスイスの有名メーカーの機械式時計でも、3年に一度程度のオーバーホールをして部品交換、オイル交換などをしなくてはならない。
機械としての風車には、オーバーホールを含む修理、保守管理が不可欠だ。
図2 長崎県ハウステンボス市のオランダ式風車
2.2 大型風車
大型発電用風車に求められている要件は自ずから小型風車とは異なってくる。
大型風車(風力タービン)の目的は、風を利用して発電することにより、化石燃料の消費を抑えることである。
その風車の開発要素技術には下記があげられる。
1. 翼
2. 発電機
3. 制御装置
4. 油圧設備
5. ギアボックス
6. タワー
これらの要素について、性能面、耐久性面の2面について要求が行なわれている。
小型の場合は、ほぼ総てが過去に完成している技術であるが、大型については、常に開発途上にあり、2.1の最後で述べたような過酷な条件を乗り越えるために日々技術開発が進められている。
今後、増えてくる大量の大型風車群(発電用ウィンドファーム)を運営していくためには、
1) メンテナンスのためにモーレナー(風車保守点検技術者)育成制度の充実
2) 制御技術(遠隔操作)
3) 要素設計の更なる高度化
4) 流体機械ではあるが他の技術のほうが大切
の4つがポイントになろう。
1についてはオランダ型風車に関して、小型風車の項目で述べた。同様の発電用風車ギルドを立ち上げ、その運営をすることを検討するべきだろう。運営方法としては、保守管理技術者認定制度のようなものをつくり、認定した技術者に保守・管理・運営を任せていくことなどを考える必要があろう。
2については、洋上化や大型ウィンドファーム化が進む中で、可能な限り、モーレナーが風車に上らなくて良いように遠隔操作ができなくては話にならない。
3については、熱帯低気圧、冬季雷などの各地域に独特の気象に対して十分な強度を持つように対策を行なう必要がある。また、更なる高効率化、静音化などの対策も日々行なわれている。
4については、風車は時間空間的に大きく変化する風を相手にする流体機械であるので、蒸気・ガスタービンよりも翼の形状を設計は困難である。つまり、風により最適の翼が変化するので、翼の設計は性能にほとんど関係しない。これは「羽根の設計=風車設計」と考える風車の初心技術者の陥りやすい錯覚である。
風車で問題になる要素の多くは、他のタービンで言う補機である。否、補機の設計計画が総てと言っても過言ではない。補機の設計をおろそかにしては、高性能大型風車とはなり得ない。
図3 米国某所ウィンドファーム
3.風力発電システムの利用状況
次に、風力発電システムの利用状況をみてみよう。国内某メーカーの風車の設置台数は図5のように急激に増加している。
図5 国内某メーカの納入実績
また、世界市場では、風力発電設備の導入量は図6のように増加し続けている。
図6 世界における利用状況
(NEDO技術解説より引用)
これらの状況から、風力発電の導入量は今後も継続的に増加していくことが予想される。
しかしながら、下図のように、日本単独では、近年の風力発電の導入量は鈍化している。日本の目標導入量は、2010年までに3000MW(300万kW)である。
図7 日本国内 風力発電装置設置容量の変遷
(NEDO技術解説より引用)
この原因は発電コストであるといわれるが、実際には図8のように発電コストは9~12円/kWhと従来の発電方式と大差はなく、また売電単価23.3円/kWhよりも低価格であるのが現状である。
次章では、このような事態が発生している原因に迫りながら、風力タービンの将来を展望してみる。
図8 各発電形式による価格の比較と家庭用電灯単価
(資源エネルギー庁 日本のエネルギー2006より)
4. 将来の展望と課題
現在の風力タービンを取り巻く課題は、技術的な問題と社会・政治的問題が混在している。
風車自体は紀元前から人類が用いている技術であり、小型風車独特の技術的課題のほとんどは解決されている。
現在の技術的課題は大型化によって巻き起こされているものであり、現存の技術の限界に迫っているものばかりである。
たとえば、大型化によっておきる問題として、強風、落雷があげられる。これらは、新材料の開発、レセプターの設置などによって防護されることで解決される。ここで、新材料とは、通電性が無いこと、十分な強度を持つこと、など多くの厳しい条件を突きつけられる。
また、大型化が進むに伴い、洋上化が行なわれる。欧州のように遠浅の海では、ジャケット式に基礎を設けて、地上と同様に風車を設置することが可能だが、日本近海のように遠浅でない場合は、海底に基礎を設けることは難しい。そこで浮体式が用いられることが想定される。浮体は海流や波浪の複雑な影響を受けるため強度の十分な検討が必要になっていく。また、通常船舶の塗装寿命は10~15年であるが、船舶のようにドッグに入れるわけには行かない浮体の場合どう対応するのかも問題になる。
さらに、風力発電の出力が安定していないことも、発電用風車が小型だった時代からすれば、問題になっている。電力系統の安定性を脅かす要素として風力発電の導入に積極的でない電力会社が日本に多いことは事実である。
この問題の解決のためには、水力タービンの技術が参考になるだろう。
水に与えられた位置エネルギーを力学エネルギーに変換、利用して発電を行なう水力タービンでは、通常ダムを設けており、ダムの水門開閉により、発電量を調整しているが、それでもなお余剰電力が発生すると揚水ポンプを用いて、ダム内に水を戻すことで、電力エネルギーを再度位置エネルギーに変換して出力変動を制御する一助としている。
風力発電においても、何らかの貯風技術が求められる。
たとえば、発電した電力を用いて水素を発生させる(化学的エネルギーへの変換)、NAS蓄電池などを用いて系統への出力を一定にする方法(電気的エネルギーへの変換)、水のくみ上げに用いる方法(力学的エネルギーへの変換)などが知られている。
最後に社会的な問題になるが、“新しいもの・見慣れないもの“すなわち”他者“をいかに受け入れていくか?ということが問題になってくる。
たとえば、鳥が風車に衝突して死ぬという反対運動がある。
確かに、イメージだけで考えれば、巨大な翼が回っている風車に衝突したならば、木っ端微塵になりそうな気がする。一時期、某大手新聞もその論調であった。(2005年12月前後)。しかし新聞社も、その後事実との相違に気づいたようで、2008年12月には論調を変えた。
どちらが正しいのか、実際の統計をみてみる。
Manvilleらによると、1年間に人工的建造物に鳥が衝突死する数は、建物の窓など 9億8千万、送電線 1億7500万、送電塔1億1600万、通信用の塔 4000万~5000万、風車4万と既存の設備に比べて、圧倒的に少ない。
しかしながら、筆者は、すでに作った送電線の撤去や、既存の建物の撤去を要求しているのを見たことがない。明らかに見たことのないものに対する思い込みから、反対運動がなされているに過ぎないのだ。
古来より、日本は、諸外国の文化をそのまま受け入れるのではなく、新たな文化と真摯に向き合うことで、その真意を汲み、己に合うように変換して受け入れてきた。
中東に生まれた風車は、欧州に運ばれ変換された。日本の風力発電関係者は、次は日本に変換すべく、努めている。
返還された風力タービンが日本に完全に根を張る日は、そう遠くないだろう。
※ 1 「風車」安藤幸二郎 工政会出版部 昭和2年
※ 2 アラスカ州自然保護局「Lemming Suicide Myth Disney Film Faked Bogus Behavior」 Riley Woodford
※3 NEDO よくわかる!技術解説
http://app2.infoc.nedo.go.jp/kaisetsu/egy/ey04/index.html#04
※4 資源エネルギー庁 日本のエネルギー2006
※5 “Avian Migration & Human Technologies Birds Must face: Traversing the Gauntlet of Tall Structure” Albert M. Manville 2006
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